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『甘えの構造』と『吾輩は猫である』

こんにちは、ショーンだ。

2015年7月に升砲館を創設して7年8ヶ月、正規入門者が500名以上。升砲館では創設当初から、昇級、昇段制度を設けている。

最初は無級から始まる。そして、1級まで上り詰めると、次は初段。

初段試験は難しい。

2019年10月に初めての挑戦者が現れて以来、この3年4ヶ月の間、初段試験は全ての挑戦者を退けてきた、誰も合格することのなかった初段の厚い壁。

もくじ

この度、C. Takemuraが見事、初段試験に合格した。

初段の審査は、アメリカの大学生でも受からない人が普通にいるぐらいのレベルを求めている基準である。

素晴らしい。ホントよくがんばった。立派だったよ。

見る者すべてに感動を与えながら初段審査を突破した彼女は、升砲館の指導員としても皆に信頼されている人物。

本業が忙しいのに、いつも門下生のために骨を折ってくれて、ありがとう。

いつも前向きに研究を続けている彼女の姿勢は、実に美しいのだ。

そんなC. Takemuraの指導を受けたい者は、ぜひ升砲館へ来たまえ。

さて、今から今日の記事を書く。

『甘えの構造』と『吾輩は猫である』

精神医学者土居健郎は、その著書『甘えの構造』(英語版は”Anatomy of Dependence”)で、「甘える」という概念は日本独自のものであり、諸外国では見られない事柄であると論じた。「わびさび」が英語で言いにくいのと同じように、「甘える」を英語で言おうにも、うまく当てはまる表現がないのだ。

土居先生は「甘え」のことを英語では”mutual indulgence(相互の耽溺)”と表現なさっていた。

「相互に気ままにさせること」というような意味で、私は素晴らしい訳だと思う。

ただ、しかし、本当に日本の「甘え」は相互(mutual)なのだろうか?

どちらかと言えば、一方通行で「(私のことを)なんでわかってくれないの!」と主張はしても、自分から相手のことをわかろうとしないことが目立つ

日本の家庭では、父親が家族の誰にも寄り添ってもらえずに孤立するケースが多い。

「どうしてわかってくれないの!」と父親は一方的に妻や娘に責められることが多いが、妻や娘は彼の事情をわかろうとしないし、言い分を聞こうともしない。

日本社会では、中年男性を「ハゲ」「デブ」となじり、ゲラゲラ笑って汚いモノ扱いしても容認される風習があるが、女性を汚いモノ扱いすることは絶対に容認されない。そういう社会なので、妻や娘が、一方的に中年男性である父を汚いものとして扱うのも当然なのかもしれない。

たとえ正当なものであっても、父の言い分が家族に聞き入れてもらえることがほとんどない家庭も多い。

会社では、上司は部下の気持ちを汲み取っていないと咎められるが、他方、そう主張する部下は上司の気持ちを汲み取る気が全くない。

本来フェアであるはずの話し合いの場でも、甘える側の感情が優先され、公平な事実に基づいた議論がなされないことも多い。

経営者の感情には誰も寄り添わないが、経営者は従業員の気持ちに寄り添うことを、一方的に求められる。従業員の感情に寄り添っていないと思われたら、実際はどうであれ、そう思わせた罪により従業員から糾弾される。

店舗では、店員はお客様の気持ちを汲み取ることを期待されるが、客は店員の気持ちなどどうでも良い。

相互(mutual)ではなく、一方通行(one-way)。

この日本の「甘え」のテーマは、儒教思想や、利他主義性、ムラ社会性などとも密接だが、またそれは別の機会に書く。

紀元前よりアリストテレスなどが打ち立ててきた世界の基準では、感情が根拠ではなく、事実に基づいた議論が大切にされる。事実は変えることができないので、両者にとって公平だからだ。

あなたはご存知だろうか?夏目漱石の『吾輩は猫である』の登場人物、家政婦おさんのことを。毎晩、睡眠中に大きな歯ぎしりで迷惑をかけているのだが、それを指摘されると「私は生まれてこのかた、歯ぎしりなどした覚えはございません」と完全に否定する。おさんは主観主義(subjectivism)で主張し、猫は「寝ている最中のことを覚えていないのは当たり前、おさんが覚えていなくても歯軋りした事実は残る」と客観主義(objectivism)で応える。この場合、おさんの主張が土居健郎の述べる「甘え」の立場に当てはまる。

いくら語学として英語を学んでも、文化の違いを学ばなければ、円滑なコミュニケーションはできないし、外国人のいる職場や国際結婚などで、しなくて良い苦労をすることになるケースが後をたたない。

健全な話し合いのできるフェアな社会を作って行こう。

日本の未来のために。子どもたちのために。

今日も笑顔で良い1日を!


ショーンツジイ

文化人類学者
英語道場 升砲館 館長


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