SHAWN TSUJII'S

「日本人にしか虫の音が聞こえない」は本当か?

写真は京都の曼殊院。

さて、夏が来た。この季節になると、決まって耳にする言説がある。

「虫の音が聞こえるのは、日本人だけ。

西洋人には虫の音が聞こえない。」

いや、それ本当?と思う。

この “虫の音問題” に関しては、文化人類学者のエドワード・T・ホールと、脳科学者の角田忠信博士が、それぞれ異なる角度から興味深いアプローチをしている。

エドワード・T・ホール、「日本人には虫の音が音楽や情緒として知覚されるが、欧米人にとってそれはノイズ、あるいは背景音でしかない」と述べた。これは文化による知覚の差異に注目したものだ。

一方、角田博士は、虫の声を処理する脳の部位に注目する。

日本人は虫の音を左脳(言語脳)で処理するが、西洋人は右脳(音楽脳)で処理するという。

つまり、日本人にとって虫の音は“意味ある音”として聞こえ、西洋人にとっては“非言語音”=BGMに近い存在として聞こえる、と。

自分の研究分野でもあるので、私も両者の研究は興味を持って読んだ。

だが、それにしても、

「西洋人には虫の音が聞こえない」

というのは、いささか飛躍が過ぎる。

そもそもこの説、日本でしか聞いたことがない。

一体だれが最初に言い出したのだろう?

サピア=ウォーフ仮説的に言えば、これは「世界の見え方は言語によって変わる」ということ。

つまり、「虫の音」というカテゴリーがある日本語と、そうした分類が曖昧な英語圏では、同じ音を違う概念として捉えているにすぎない。

英語圏では、鳥の声も虫の音も含めて「noise(ノイズ)」と呼ばれる。

日本語で「雑音」と訳されるこの単語は、ネガティブな印象がある。

だが、英語における“noise”はもう少しニュートラルで、「自然音」や「動物の出す音」を含む。

この翻訳のズレが、「日本人にしか虫の音が聞こえない」という都市伝説を生んだのかもしれない。

とはいえ、

「日本人は情緒豊かだから虫の音が聞こえるんだ」

「日本語には“虫の声”という美しい概念がある」

そういう誇りやロマンを否定する気はない。

だが、事実と感性は、区別されるべきだ。

例えるなら、関東では「バカ」と言い、関西では「アホ」と言う。

呼び方が違うからといって、東京にアホがいないわけじゃない。

同じように、虫の音を「voice of insects」と呼ぶか、「background noise」と呼ぶかの違いであって、聞こえていないわけではないよ。

ちなみに、1980年代のUKポップデュオ、Wham!の有名曲”Club Tropicana”を聞いてみてほしい。

曲の冒頭、約30秒間に流れる音。あれは、何の音?

そう、虫の音である。

わざわざそれをサンプリングしてまで曲の“演出”に使っているのは、なぜか?

もし「イギリス人に虫の音が聞こえていない」なら、そんなこと、するはずがないのでは!?


ショーンツジイ

プロイングリッシュスピーカー育成ディレクター



↑《メタレベルの英語》体験講座
英語上級者・超上級者・プロ専用
上位コース《升砲館インスティテュート》入門編
崖っぷちの人にも
↑初級者〜中級者対象の
本格英語発音矯正
正しい発声と発音、リズムを身に付ける
《升砲館アカデミー》の体験はこちらから
↑英語が好き、英語の音が好き
という大人の方対象
ブランクが長くても大丈夫です
個人面談であなたの声を聞かせてください
もくじ