写真は、友人のジョアン・タメンヌ氏と。モナコ在住の有力者で、人道支援活動やノブレスオブリージュの精神を大切にする彼のような権力者の存在は、本当に貴重だと思う。
さて、この3回シリーズの前回の記事では、人類の歴史の中で、スポーツがいかに国家や教育のための「洗脳的な装置」になってきたか、そういう側面について触れた。
第2回の今回は、人類最大の発明ともいえる「言語」について考えてみたい。
歴史の流れをたどれば、言語とスポーツ教育は、意外な形で深くつながっていることが見えてくる。
そもそも、ヒトはどういう特徴を持つ種だったのだろうか?
生物学者マット・リドレー、神経科学者ヴィルヤヌール・ラマチャンドラン、そしてロシアの思想家クロポトキンが繰り返し指摘してきたように、
ヒトというものは本来、助け合いの精神に満ちた、社会性を非常に発達させた霊長類である。
鋭い牙や爪もなく、同じ霊長類のサルよりも身体的にはるかに脆弱なヒト。
そのようなヒトが、野生動物や他部族からの脅威の中で生き延びるには、集団の中での高度な共感性と協調性が不可欠だった。
つまり、「助け合い」こそが人類生存の核心だったのだ。
そんなヒトが、約3000年前、モーゼの脱エジプト時代以降から、“言語による思考”を本格的に運用し始める。
言語は素晴らしい発明だった。
・森羅万象を整理整頓し、
・記録と継承を可能にし、
・科学や哲学、文明を発展させた。
サルは得た知識を子孫に伝えることはできないが、
ヒトは言語を通じて「知恵」を後世に伝えることができる。2400年前のソクラテス以来の思想が、いまもリアルに息づいているのはそのためだ。
だが、問題はそこから始まる。
言語は“思考”を生み、
やがてその思考がヒトを支配するようになった。
ハンガリーの科学哲学者アーサー・ケストラーはこう言った。
「人類から戦争をなくす最も良い方法は、言語をなくすことである。」
これは逆説であり、皮肉だ。
だが本質を突いている。
犬は、セントバーナードとチワワという異なる種であっても、
吠え声や身体の動きで、誤解なく意思疎通ができる。
しかも、国内、海外、関係なし。
だがヒトは、言葉によってすれ違い、誤解し、憎しみ合う。
たとえば、ノルウェー語とスウェーデン語は、語彙や文法が非常に近く、お互いにある程度理解可能なことで知られる。
しかし、「似すぎている」ために、“微妙な語感の違い”が相手に誤って伝わることが多々ある。「丁寧な表現」「冗談」「皮肉」などの意図が微妙にずれて伝わり、“言葉は通じるが、心がすれ違う”という事態が起きる。
言語が似すぎているがゆえに、かえって“無意識の誤解”が生まれる典型例だ。
アディダス創業者のアドルフ・ダスラー(通称アディ)、
プーマ創業者のルドルフ・ダスラー。
有名なダスラー兄弟の確執はご存じだろうか?
戦時中、アディがルドルフの家族に向かって「またあいつらが来やがった」と言ったのを、ルドルフが自分たちのことだと受け取って激怒したという話だ。実際は爆撃機のことを指していたのだが、ルドルフの怒りは収まらなかった。
その後、ダスラー兄弟は死ぬまで和解することはなかった。加えて、両社の製品の熱心な愛用者までが、「お前はアディダス派か!」「プーマ派か!」と仲違いを開始。
そのように、言語は「優秀な情報伝達ツール」であると同時に、
齟齬を生み出しやすい、危険な「分断の装置」でもある。
旧約聖書のバベルの塔の神話も、この人類の分断を象徴している。
言語の登場、それは人類の奇跡と呪いの始まりだったのかもしれない。
そこにスポーツが登場することになる。
古代ギリシャが“遊び”としてのスポーツを制度化したのは、
言語によって失われた「本来の協調性」を取り戻すためだったのではないか。
スポーツの語源は「遊び(paidia)」である。
スポーツには、
・思考を超えた共鳴性
・ルールを通じた、無言の信頼
・競いながらも共に笑う、「言葉を超えた友情」
がある。
スポーツ教育の登場は、思考によって分断された人類に、本能的な「助け合いの精神」を思い出させる装置として、人類の歴史にとって必然的なものであったかもしれない。
何にも一長一短がある。
ゆえに、
本当に「良い教育」とは、
語学でも、スポーツでもない。
どちらも尊重するが、どちらにも寄りかからない。
そのような中庸なものだと、私は思う。
知性と理性を大切にしながらも、
それらに支配されない、“術”の教育。
助け合いの精神、公の精神を基礎に持ちながらも、
押しつけられず、自然に湧き上がる「種の本能」を軸に持つ教育。
さらに深いところには、言語の教育でもなく、スポーツ教育でもない
もう一つの教育体系がある。
その教育体系とは?
シリーズ最終回の次回は、言語よりも古く、スポーツよりも深い、
人類最古の教育について触れる。
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