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「日本語の母音は5つ」だなんて、誰が決めた?

写真は母校立命館高校の前回の同窓会。9学年下の三田と髙田と。20年ぶりの再会でお互い年齢を重ねてはいるが、やっぱり後輩たちはいつまで経ってもかわいい。

さて、
「英語の母音は20個以上、日本語はたった5つ。だから英語は難しい」

英語教師の間でよく聞く決まり文句だが、私はいつも首を傾げる。
この言説、実に“表層的”である。

そもそも、
日本語の母音が「5つ」しかないというのは、本当なのか?

教科書では、〈あ・い・う・え・お〉の5母音と習う。
だが、実際に日本各地の「生きた言葉」に耳を澄ませてみると、そんなに単純ではない。

例えば、「あ」。

京都の「あ」と、博多の「あ」と、津軽の「あ」
同じ仮名で書かれていても、その響きはまるで別物だ。
加えて、同じ地域に住む人間同士でも、「あ」は微妙に異なる。

つまり、日本語の母音とは「5つに“整理された”もの」であって、
“本来5つだった”わけではない。

言語は整理された瞬間、嘘になる
このような「数の神話」は、他にもある。

たとえば「日本には四季があります」

美しい表現だが、日本には「梅雨」という季節があるので、厳密には「五季」なのでは?
また、北と南では“春”の到来の感覚もまったく異なる。

結局、「四季」とは誰かが都合よく世界を切り取った分類にすぎず、
現実の自然はもっと豊かで、もっと複雑で、もっと曖昧だ。

母音も同じこと。

奈良時代、サンスクリットの梵字を日本語にあてはめる際、
日本語の5つの母音と一致し過ぎて、当時の人間は驚いたのだろうか?
むしろ、合わなさすぎて、無理やり合わせたのではないか?

日本語の音は、整理しきれぬほど“多すぎた”のだ。

子音にしても同じである。
「ん」だけで、4種類ある

「ん」というたった一文字の中に、実は少なくとも4種類の発音が存在する。
前の音や次の音によって、舌の位置も、鼻腔の響きも、微妙に変化する。

見た目は単純。
だが、実態は極めて複雑。
それが日本語という言語である。

英語の方が「わかりやすい」ように思う。

英語は、「見た目には複雑」だが、実際には体系的だ。
発音記号も、音素の区分も、ある程度規則的で「学びやすい」。

つまり、

日本語は、単純に見えて、複雑
英語は、複雑に見えて、単純

日本語話者が英語の音に戸惑うのは、音が多すぎるからではない。
むしろ、もともとの音感覚があまりに柔軟すぎて、定まらないからである。

選択肢が多すぎる自由は、しばしば混乱を生む。
「決める」という行為ができずに、音がふわふわと宙をさまよう。

そしてもう一つ、日本人が英語を話すときに気をつけるべきこと。

口のフォームが、流れている。

たとえばネイティブスピーカーの “you” の発音は、
口の形が一瞬で「決まり」、迷いがない。

だが多くの日本人は、言い終わるまでに口がにじみ、
“yoo…” と曖昧に流れてしまう。

もともとの日本語の発音法が柔軟性に富むあまり、フォームが流れ、音の定位が甘く、焦点が合わない。
多くの人が誤解しているが、英語発音時の口の動きの方が、本当は制限されているのだ。

これは訓練の問題ではない。
言語そのものの身体感覚を、まず理解しなければならないのだ。

英語が難しい理由は、「母音が多いから」ではない。

むしろ、「音の自由度が少ない」世界への引っ越し作業。
これこそが、日本語話者にとっての本当の難しさだ。

自由を知っている人間が、秩序の中に身を置くということ。
柔軟な音世界の中で生きてきた者が、「規格化された」音世界に挑むということ。

升砲舘では、こうした深層にある身体の使い方や認知レベルから、声と発音を鍛える。

あなたの中に眠っている、まだ誰にも届いていない音。

それを呼び覚まそう。

「音の本質」に届くとき、あなたの言葉は変わり、人生も変わるかもしれないよ。


升砲館金剛會 ショーンツジイ

プロイングリッシュスピーカー育成ディレクター



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